最高裁判所第三小法廷 昭和45年(オ)730号 判決 1971年11月30日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人宮内勉の上告理由について。
原判決(引用にかかる第一審判決を含む。以下同じ。)の確定する事実は、次のとおりである。すなわち、上告人は槙下四郎に対して有する六〇万円の違約金債権について債務名義の執行力ある正本に基づき、同人が被上告会社に対する請負契約上の報酬債権を目的とする債権差押、取立命令を得、同命令は、昭和四一年一二月二八日第三債務者たる被上告会社に送達された。しかるところ、右差押、取立命令における被差押債権の表示は、要するに、「債務者(槙下四郎)が第三債務者(被上告会社)に対して有する昭和四一年一二月三〇日に支払を受くべき、(1)滋賀県長浜市の上水道工事、(2)兵庫県明石市の上水道工事の下請負代金の合計金一五〇万円の内金六〇万円」というのである。そして、右(1)、(2)の両請負工事は一個の契約に基づくものとは認められず、それぞれ別個の契約であつて、報酬を一括して約束したものでもないというのである。したがつて、このような事実関係のもとにおいては、右の差押、取立命令は、差押、取立にかかる債権の範囲が特定されていないゆえをもつて無効のものというべきである。それゆえ、これと同旨の原判決の判断は正当であり、論旨は理由がない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 下村三郎 裁判官 田中二郎 裁判官 関根小郷 裁判官 天野武一)